HTLV-1のこと
HTLV-1情報サービスのサイトより掲載しています。
もっと詳しい情報を知りたい方はこちらをご覧ください。
HTLV-1ってなに
About HTLV-1
HTLV-1とは、ヒトT細胞白血病ウイルス(Human T-cell Leukemia Virus Type 1)の略称で、血液中の白血球のひとつであるリンパ球に感染するウイルスです。
HTLV-1が発見されたのは1980年と比較的最近ですが、このウイルス自体は古くから人類と共存してきたものです。日本では縄文時代より前からHTLV-1の感染があったといわれています。
現在、日本に約108万人前後、世界で推定3000万人以上の感染者がいるといわれています。 このウイルスは、インフルエンザウイルス等とは異なり、感染しても全く自覚症状がありませんが、一度感染するとリンパ球の中で生き続け、感染者のごく一部の方に病気を起こします。
※平成20年度の厚生労働省の調査によると、現在、国内には108万人前後のHTLV-1感染者がいることが明らかとなりました。これはB型肝炎やC型肝炎に匹敵する感染者数で、決して少ない数ではありません。
もともとHTLV-1感染者は、九州などの地域に多いとされていましたが、この調査で関東や関西の大都市圏でも増加傾向にあることがわかりました。(厚労省発行パンフレットより)
キャリアについて
Career
キャリアとは?
インフルエンザウイルスなどとは違って、HTLV-1に感染していても自覚症状はありません。また、HTLV-1に感染していても約95%の人は生涯病気になることはありません。ウイルスに感染していても発病しない人のことを「キャリア」とよびます。
HTLV-1感染者のごく一部で
- ATL(エーティーエル):成人T細胞白血病
- HAM(ハム):HTLV-1関連脊髄症
- HU(エイチ ユー):HTLV-1関連ぶどう膜炎
を発症します。これらの病気が発症するしくみについては、まだはっきりとわかっていません。
1人のHTLV-1感染者が生涯にATLになる確率は約4~5%、HAMになる確率は約0.3%といわれています。また、個人差がありますが潜伏期間はATLで40年以上、HAMやHUは数年以上といわれています。つまり、ATLは40歳を超えるまでほとんど発症しませんが、HAMやHUは若い人でも発症することがあります(HAMの平均発症年齢は40代です)。ATLは男性に多く、HAMとHUは女性に多い傾向があります。HAMはHUを合併して発症することもあります。
HTLV-1に感染しているとは?
HTLV-1は、人の体に入り込むと、血液中の白血球の1つであるTリンパ球に入り込みます。体の中では、侵入したウイルスを取り除こうとする免疫反応が起こり、HTLV-1に対する抗体(抗HTLV-1抗体)が作られます。 普通は、作られた抗体の働きで体の中からウイルスを取り除くことができますが、HTLV-1は、侵入したTリンパ球の中でさらに遺伝子の中にまで入り込んでしまうため、作られた抗体では取り除くことができなくなってしまうのです。つまり、HTLV-1は侵入したTリンパ球の遺伝子の中で生き続けることになります。この状態を「持続感染」とよびます。
HTLV-1にはどのように感染しますか?
HTLV-1は感染力が極めて弱いウイルスです。そのためHTLV-1に感染したTリンパ球が生きたままの状態で大量に体内に入らなければ感染は起こりません。
1986年以降は、献血された血液がHTLV-1に感染しているかを検査するようになったため、現在では輸血による新たな感染はありません。
HTLV-1は日常生活でうつりますか?
HTLV-1感染Tリンパ球は、乾燥、熱、洗剤で簡単に死ぬため、水、衣服、食器、寝具などからうつることはありません。また、HTLV-1は飛沫感染しないので、くしゃみや咳でもうつりません。隣に座る、握手をする、一緒に食器を使う、一緒にお風呂やプールに入る、トイレを共用するなどといった職場や学校での社会生活のなかで感染することはありませんので、HTLV-1に感染していてもこれまでと同じように生活を送ることができます。
ただし、次のことはエイズウイルス、肝炎ウイルスなどの場合にも同じで、HTLV-1に限ったことではありませんが、血液が付着した歯ブラシや剃刀を共用すること、消毒が不十分な器具を使用して刺青を入れたり、ピアスの穴を開けること、同じ注射器を使って違法薬物などを回し打ちすることは感染の可能性がある危険行為です。絶対に行わないようにしましょう。
HTLV-1の感染を防ぐには?
HTLV-1に感染しているお母さんから赤ちゃんへの感染は、主に母乳中に含まれるHTLV-1に感染したTリンパ球が原因です。母乳からの感染を防ぐには、
- 1. 育児用ミルクを与える
- 2. 3ヶ月以内の短期間に限って母乳を与える
- 3. 冷凍した母乳を与える
といった3つの方法が有効です。産科や小児科の医師と一緒に、お母さんと赤ちゃんにとって最適な栄養方法について考えて行きましょう。
また、性交渉によるパートナーからの感染は、精液中に含まれるHTLV-1に感染したTリンパ球が主な原因です。特に長期間にわたって性交渉が続く夫婦間での感染が多いと言われていますが、どのくらいの頻度なら感染が起こるかなど、まだはっきりとわかっていません。性交渉による感染を防ぐにはコンドームの使用が有効です。
子供をもつことを希望している場合には、まずはパートナーと十分に話し合いお互いの意思を確認してください。ただし、HTLV-1に感染していても妊娠に影響することはありません。またHTLV-1が原因で赤ちゃんに奇形が生じたり、産まれた後に異常を起こすこともありません。少しでも疑問や不安がある場合は、お住まいの保健センターに相談してください。
ATL(成人T細胞白血病)
Adult T-cell leukemia
ATLのこと
ATLとは、成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia)の略で、白血病・リンパ腫の一種です。以前はその原因は明らかではありませんでしたが、1980年にHTLV-1が発見され、ATLがHTLV-1によって引き起こされていることが明らかになりました。
ATLはどのような病気ですか?
ATLは、白血球の中のT細胞にHTLV-1ウイルスが感染し、がん化したことにより発症する血液のがんです。したがってHTLV-1ウイルス感染者のみが発症します。T細胞は、白血球の中でも免疫担当細胞として重要な役割を果たしているので、ATLが発症すると、強い免疫不全を示します。
そのため、健康な人はかからないような感染症(日和見感染症(ひよりみかんせんしょう))にかかりやすくなります。またATLが進行するといろいろな臓器に障害を起こし、放置すると死に至ります。
ATLの症状はどのようなものですか?
全身のリンパ節が腫(は)れたり、肝臓や脾臓(ひぞう)が腫れることもあります。また原因不明の発熱もよく見られます。皮膚紅斑(ひふこうはんー皮膚の赤い発疹、盛り上がったものが多い)や皮下腫瘤(ひかしゅりゅうー皮膚の下にしこりを触れる)などの皮膚の症状、下痢や腹痛などの消化器症状がしばしばみられます。
成人T細胞白血病(ATL)の病勢の悪化によって血液中のカルシウム値が上昇(高カルシウム血症)すると、全身倦怠感(けんたいかん)、便秘、意識障害等を起こします。また、免疫能低下により、いわゆる日和見感染症を高頻度に合併します。細菌感染症のみではなく、ニューモシスチス肺炎、クリプトコッカス肺炎・髄膜炎、全身のカンジダ症やアスペルギルス症などの真菌感染症、サイトメガロウイルス肺炎・網膜炎・消化管感染症、汎発性帯状疱疹(はんぱつせいたいじょうほうしん)などのウイルス感染症、糞線虫(ふんせんちゅう)症などの寄生虫感染症等が高頻度に見られます。
HAM(HTLV-1関連脊髄症)
HTLV-1 associated myelopathy
HAMのこと
HAMとは、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy)の略です。現在、全国で約3,000人の患者さんが病気と闘っていると推定されています。またHAMは平成21年度より、厚生労働省難病対策疾患に指定されました。 HAMが発症する原因はまだはっきりとはわかっていませんが、HTLV-1に感染したTリンパ球が脊髄の中に入り込み、炎症を起こすことがきっかけと考えられています。そして脊髄の中で起こった炎症が慢性的に続くことで、神経細胞が傷つけられます。脊髄には両足、腰、膀胱、直腸などへつながる神経が通っているので、足が動かなくなったり、排尿障害、便秘などの症状が現れます。
またHAMは、病気の症状や進行具合の個人差がとても大きいという特徴をもっています。したがって、将来的に病気が進行していくことを出来るだけ防ぐために、病気の進行度を調べる検査をして、ひとりひとりの病状に応じた治療を受けることが重要です。
HAMの進行を防ぎ適切な治療を受けるために、早いうちからきちんと検査を受けて病気の評価をおこない、主治医にご自身の症状や希望を相談するようにしましょう。
HAMの初期症状は?
HAMの初期症状として以下の項目があげられます。
- なんとなく歩きにくい
- 足がもつれる
- 走ると転びやすい
- 両足につっぱり感がある
- 両足にしびれ感がある
- 尿意があってもなかなか尿がでない
- 残尿感がある
- 頻尿になる
- 便秘になる
キャリアの方で上記のような症状が持続する場合は、すみやかに医療機関を受診してください。診療科は神経内科をおすすめします。
また、受診する場合には
- 自分がキャリアであること
- いつから上記の症状があるか
- 上記の症状の程度はどのくらいか
をきちんと医師に伝えてください。そうすることで、早急に適切な治療を始めることができますので、あなたの今後の生活を大きく変えることにつながります。
HU(ぶどう膜炎)
HTLV-1 uveitis
HUとは?
HTLV-1感染が原因で、眼の中のぶどう膜という所で炎症(ぶどう膜炎)が生じる病気です。ぶどう膜炎はHTLV-1以外のウイルスや細菌等の原因でも起こる病気ですので、HTLV-1はぶどう膜炎のたくさんある原因のうちの1つとなります
HUはキャリアの約0.1%に認められ、女性が男性の約2倍多く、特にバセドウ病の既往がある方に発症しやすいことが知られています。
初期症状は?
症状は他の原因によって起こるぶどう膜炎と同じで以下のような初期症状があります。
- 眼の前に虫やゴミが飛んでいるようにみえる。(飛蚊症)
- かすんでみえる(霧視)
- 眼の充血
- 視力の低下
キャリアの方でこのような症状が片眼もしくは両眼に急に起こった場合は、すみやかに医療機関を受診して下さい。診療科は眼科をおすすめします。
特有の症状はありませんので、診断には慎重な検査が必要です。頻度としては、HTLV-1キャリア10万人当たりに110人程度のHU患者がいるとされています。女性が男性の約2倍多く、多くは成人ですが小児に発病することもあります。
HUの治療方法は?
HUには副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬)がよく効きますので、点眼あるいは内服で治療します。およそ1~2カ月の治療でほとんどの方が治癒します。
ただし、約半数の方でHUが再発しますが、その場合には最初と同じように治療します。再発する頻度は1年に数回~数年に1回など、個人差がありますが、再発するたびにきちんと治療することで、長期的に視力を良好に保つことができます。
いずれの場合にも早期に治療を開始することが大切です。ぶどう膜炎を疑う症状がある場合には、すみやかに医療機関を受診して下さい。